ここは苦しい所 私には冷たい所
でも安心する、心地いいそんな所
「何だよそれは」
と銀色の髪と緑の瞳を持つ男が言う
この不思議な男は数日前に現れて来た
‘蟲‘である私はいつもの様に人里離れた所にある
ちいさな空き家の縁側でぼーっと
ただ空を眺めていた
その時この男が現れた名前はギンコと言うらしい
(「俺は蟲師のギンコだ、ちょいとお前さんの噂を聞いて立ち寄った」)
「さぁ、ギンコも蟲になれば分かるんじゃない?」
「私は人の心が無いから人間であるギンコに伝えるのは難しい」
少しギンコは哀しそうな顔をする
「・・・・・・お前は蟲になった事を悔やむ事は?」
と更に顔を俯けて問いかけた
「あったのかもね
とおい昔は憎み哀しみ嘆き 涙を流したのかもしれない
でも、今の私には出来ない
そうね、悔やむ事も もう出来ないわ
良くは覚えていないけれどね 微かにある記憶
その中で人を捨てる時の私は
笑っているの
だから きっと悔やんでは無いと思う
それにしてもギンコは変な人間ね
蟲なんて普通は畏れるものよ?」
本当に不思議な人間だ ギンコと言う男は
蟲を畏れる所か蟲に情をかけている
「畏れはしないさ、ただ皆あるようにあるだけだ」
ああやっぱりギンコは不思議だ
彼の近くに居ると何かが暖かくなる
そして微かにしか残っていない記憶の中の 私の名前を呼んで欲しいと思った
私はこれを知っている
何だった? ‘これ‘はいったい何だった?
「ねぇ、ギンコ 私の名を呼んで」
ふと私が言うとギンコは不思議そうに
「何だ?いきなり -------」
相変わらず青い空を眺めて
ほんの一瞬 涙が出そうになった
(4/15)微かな記憶すらなくなる前に出会えてよかった